大地に生きる 

    
 
 


 遊牧民は、囲われた場所で飼う、
 豚やニワトリは、飼っていません。
 草原では、牛や馬や羊を飼います。
 
 放し飼いなので、
 当然、草原のあちこちに、糞があります。
 私たちは、その糞が気になり、
 足もとばかり見て、よけながら歩くのですが、
 モンゴル人は、踏んづけても気にしません。
 
 草原の糞を踏んづけても、
 靴は臭くならない、と言います。
 モンゴル人にとっては、
 その糞は、決して汚いものではありません。
 
 牛や羊は、草をしか食べないので、
 その糞は匂いもないし、むしろ、恵みなのです。
 冬は、手を入れて暖を取ることもあるそうです。
 
 乾燥させたものを暖炉にくべると、
 とても安らぐ匂いがするそうです。
 モンゴル人にとっては、
 牛や羊は、草を食べて、
 乳やチーズや肉を与えてくれる工場なのです。
 だから糞は、再生可能な廃棄物です。
 
 人間のトイレに対する考え方も、
 私たちとは、根本的にちがいます。
 草原では、野ションが基本です。
 それが、乾いた土地の恵みになるのです。
 
 だから、恥ずかしい、という気持ちがありません。
 話しながら、野ションするのです。
 あのロングコートの民族衣装は、
 お尻を隠すための長さだそうです。
 
 野ションは、「私には出来ない!」
 と言い切りましたが、出来ました。
 モンゴルで一番楽しかったことは、
 あの、大地でする野ションだった気さえします。
 
 日本のトイレは、世界一きれいです。
 ウオシュレットで、手を汚すこともありません。
 トイレットペーパーは、柔らかくて、水に流せます。
 
 そのことを今までは誇りに思っていましたが、
 さてどうなんでしょう。
 日本人は、潔癖性の部類に至っている気がしました。
 そこまで覆い隠して、
 亡き物にする必要はないのかもしれません。
 
 排泄物は、汚くて臭い物で、
 病原菌の塊だ、といつから決めつけているのでしょうか?
 ウサギの糞や、奈良の若草山の鹿の糞が、
 臭くないなんて、考えたこともありませんでした。
 
 栄養の循環や、自然の生態系について、
 日本人は、目を背けすぎているかもしれません。

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